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「鍋焼きうどん」記念日

鍋焼きうどん

 4年前の10月26日昼は、念願の、いや悲願の「鍋焼きうどん」。術後1ヶ月半、スイカしか受けつけなかったのに、温かい麵が手品のようにするすると腹に収まった。前日まで、口に入れたものすぐ戻してしまう身体だった。
 病院すぐ近くの小さなソバうどんの店。毎日、4階の病室から町並み眺め、退院したらあそこでうどん、鍋焼きうどん食べてやると夏から決めていた。秋の歩道にはプラタナスの大きな葉が何枚も落ちていた。使い込まれた暖簾も何だか嬉しく、事情話したら、鍋焼きうどん1つに、2つのレンゲと2つの小鉢を出してくれた。一緒に家へ帰るママヨさんと等分した。出汁を吸って柔らかくなった麵も、半熟の玉子も、天ぷらも、蒲鉾も、ネギも。ゆっくりゆっくり食べた。心配そうで嬉しそうなママヨさん前に、生きることは食べられることなんだとつくづく思った。理屈ではないリアルなこの感覚、絶対に忘れられないと思った。

 先月亡くなられた方に花持って手合わせて来た。「やりたいことを全部やったから80歳まで生きられたら本望」と話されその通りに、と奥様。祭壇の写真そんな感じで笑っていた。26日から少し過ぎたが、今年もあの時とだいたい同じ具の鍋焼きうどん作り食べた。あの鍋焼きうどんから始まった「俺のやりたいこと」は、今どこまできたっけなんて考えながら。心静かに。先週末ポストへ入れた知人宛の絵葉書は誰の手元へ届くのだったかなあ、なんてぼんやり考えながら箸をすすめた。雨降る秋の日は、夕方からもう夜。

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