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8月20日(土) 60年目の安堵

 16日の朝は静かだった。前日の雨が上がり、蝉の声は未だ聞こえない。正面の大きな十字架が逆光で黒い影を作り、秋にはたわわに実る栗の樹が頭上で輝いていた。

 母の骨を父の眠る土に埋めた。結婚生活5年間の父と母が60年経ってやっと一緒に眠ることができた。牧師さんの納骨の祈りを、父の納骨時に4歳だった立男氏が60年ぶりに聞いたことになる。

 波風立男氏が「俺は長男」を意識するようになってから、母の墓所をどこにするかは大きな悩みだった。今年還暦の妹と悩み続けてきた。子どもが困らないよう「骨は海に撒いて欲しい」と言われた時に大反対したが、そうかといって考えは誰も持っていなかった。そう言われて「俺は長男」が一気に押し寄せて来た。
 洗礼を受けなければ、キリスト教での埋葬はあり得ない、と思い込んでいた。仏教に比べて敷居が高い感じがあった。だが、神を信ずる人の心は狭くはなかった。牧師さんの「安心してください。お母さんは天国でお父さんに会えますよ」という言葉は本当に嬉しかった。

 何よりも、母に弔われず、母を弔うことができた。そして、父と母を同じ土に埋葬できた。信心の薄い波風立男氏だが心静かに手を合わせる8月。

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