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ブラジル

namikazetateo2014-01-09

 もう15年ぐらい前になるが、行きつけの喫茶店が3軒あった。日曜午前に漫画週刊誌を読む店、小児科医院に車で送り待っている間の店、夜に道草する店だ。週に1度、コーヒー代一杯分のお賽銭で「よく働いた。神様だってわかるでしょ?」を内心の声をささやかに響かせる儀式だった。病院隣の店でミルクティーにしたのは休みとの区別だし、潰瘍の胃に少しは優しくしてやろうという気分だ。夜だけ開く店はコーヒーが旨く、若く愛らしい経営者の仕事ぶりも気持ちよかったが一帯の大火で無くなった。今はもうみんな消えてしまった。

 人生初の喫茶店は、長髪許可の高校の時だ。学校側が心配する、長髪=不良行為=楽しい、は予想通りの公式だった。長髪になった途端にパチンコ、ピンク映画、ストリップにえらく若いのが増えたはずだ。「管理で無く自由を」の70年代学生運動は田舎の高校生にも大きな影響を与えた。波風も満を持して入店した。喫茶店だよ。煙草くさくて薄暗かったがちっとも「不良のたまり場」じゃあなかった。一緒に行った奴が「これ何だか違うなあ」と知ったよーな口ぶりで何度も言うから「こちらはサービスです。もう一回試して下さい」と蝶ネクタイの主人が入れ直したコーヒーを銀盆に乗せて持ってこられた時は参った。庶民の家に大瓶のネスカフェが入り始めた頃だ。
 半地下のこの店は今も健在で時々寄る。【次回「面接試験」に続く】


 この曲を聴くと70年代を、少し背伸びしていた頃を思い出す。薄暗くて、煙草臭くて、見知らぬことへのあこがれがあって…。

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