カウンター

昨日の朝のこと

カーテンのかかった玄関口がぼうっと明るい菓子屋。静まりかえった黄昏時の山間でやっと見つけた古民家。私は鞄持ってコートを着ているから出張で来たのだろう。ここでバスの停留所を教えてもらえるし家の土産も買えるかも知れない。前掛けで手を拭きながら出てきた老婆が、店はだいぶ前にやめてしまったが村のみんなが知っていることだから看板だけ片づけないでいると言った。

 

婆さんの娘だろう中年の女が、家の裏の道を登ったらバス停がある、最後のバスが10分したら来ると言い、奥にいる子どもに「道を教えてあげな。暗いし山道だから。」と声をかけてくれた。低中高の小学生3人が何に使うか知らないが小さな籠を背負い手慣れた感じで先を行った。道というより絶壁に細々とついた人一人やっと歩ける幅の窪み、ブドウの蔓にしがみついて登るしかなかった。黙って先を行く子どもらは後ろを振り向かず、時々止まってキノコを取って背負ったカゴに入れていた。闇はどんどん深くなり傾斜は急になり、少しでも油断したら命綱のブドウ蔓を手放したり見失う恐怖が襲ってきた。いったいどのぐらいの時間が過ぎたのだろう。

 

これは夢だとわかっていた。閉めた菓子屋、キノコ、バス停はそれぞれ別個の体験や記憶があり、夢の中で不思議に結ばれて一つの話になっていた。トイレの我慢も限界になり起きようと片膝立てて壁に片手ついたらどうしたわけか脚元が揺らぎ上半身から先に布団の上に転がった。普段なら笑うところだが、突然怖くなった。覚醒した途端、夢だとわかっているのにその夢にあった絶望的な皮膚感覚が襲ってきたからだ。

 

 

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