心に引っかかる詩を書き写し始めた。昨日は『あいたくて』(工藤直子)、今日は『好日』(天野忠)。散文を読んでいると韻文が欲しくなる。短くて心の奥の奥に響く言葉の刺激で、小説に浸り切った頭が一旦リフレッシュされる感じ。随筆や説明文ではなくて『詩』でなければ駄目なのだ。
選ぶ基準は別にないが、素直に読めて読む前よりも心がシーンと静まるようなのがあればいい。楷書みたく優しくて分かりやすいのが。 明日は、八木重吉か吉野弘にしよう。
好日
天野 忠
おじいさんと
おばあさんが
散歩している。
人通りのすくない公園裏の
陽のあたるおだやかな景色の中を。
おじいさんと
おばあさんが
うなぎ丼を食べている。
おじいさんが少し残したので
おばあさんが小声でたしなめている。
おじいさんと
おばあさんが
鳩に餌さをやっている。
本願寺さんの広い庭で
坊さん同志が鉢巻きをして喧嘩した庭で。
おじいさんと
おばあさんが
夕暮れの景色を見ている。
「少し寒いようだね」とおじいさんが言う
「ええ すこし」とおばあさんがうなずく。
おじいさんと
おばあさんが
一つ蒲団の中で死んでいる。
部屋をキチンと片づけて
葬式代を入れた封筒に「済みません」と書いて。