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退職の頃の言葉 【2】

愛媛から来た椿(工芸)

(前回から続く)
 そうした中で、妻の「これぐらいならまだまだ大丈夫」というきっぱりとした言葉は大きな救いでした。退院後、根拠を聞くと、「そう思いたかったから…」という返事に唖然としましたが、言葉は魔法だと実感しました。彼女が病床の私に教えてくれた呪文の言葉がこれです。

  青山は私を見て 無言で生きろと言う
  蒼空(そうくう)は私を見て さりげなく生きろと言う
  むさぼる心を捨て 怒りからも解脱(げだつ)して
  水のように 風のように生きて行けと

 詩人、茨木のり子さんの「一本の茎の上に」(ちくま文庫」)に出てくる茨木さん訳の韓国の言葉です。私が見つけた言葉は、額田勲著「がんとどう向き合うか」(岩波新書)にあった末期癌で静かに逝かれた婦人のものです。

  なすがまま あるがままの 晩夏光

 この2つの言葉を声にしないで口ずさんでいた、あの年の夏から秋に変わる季節も、今はもう随分前のことのようです。(明日に続く)

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